大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(ワ)4030号 判決

原告 山際電気株式会社

右代表者 山際俊夫

右代理人弁護士 佐藤正三

被告 社会福祉法人六踏園

右代表者 中川庫吉

右代理人弁護士 佐瀬茂

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が電気器具等の卸売業を営む会社であり、被告が墨田区橋一丁目二十番地に主たる事務所を置き会社事業を営む法人であることは当事者間に争いない。

原告はその主張するところの電気器具類の販売は被告法人の代理人である被告法人電気部主任訴外斎藤道太郎に対して為したものであり、仮に然らずとするも被告は右斎藤の行為について商法第二十三条、又は、民法第百九条による責に任ずべきである旨主張し、被告はこれを争うから、先ずこの点について判断する。

被告法人が前記同所々在鉄筋コンクリート建の建物(通称六踏園ビル)に事務所を有し、斎藤道太郎が同建物の一室において六踏園電気部なる名称をもつて、電気器具類の販売を為していたことは当事者間に争いなく、証人高橋英治の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証、同第四第五号証、証人斎藤道太郎、同松村清、同高橋英治、同滝沢清の各証言(但し証人高橋、同滝沢の証言中左記認定事実に反する部分は除く)及び検証の結果を綜合すると、右六踏園ビルは訴外天理教東本大教会の所有にして、電車通りに面した間口は約四十間奥行は約五間の三階建の建物にして、一階の向つて右側角の部屋は被告法人が事務所に使用し、右電車通りに面した一階の部屋の使用関係は被告法人木工部が一室(この室の表側出入口ガラス戸には「社会福祉法人六踏園木工部」なる金文字が書かれ看板とされている。)、訴外斎藤道太郎が一室を使用している他は、右教会の倉庫、又は同教会、或は被告法人とは何らの関係もない会社、商店の事務所営業所となつていること、斎藤道太郎は天理教の信者にして電気に関する技術を有していたところから、六踏園ビルの変電所の仕事をしていた関係上昭和二十九年五月頃より右一室を借受け、電気器具類の小売商を始め、原告会社より仕入れを為していたが、これは斎藤一個人の営業であつて、被告法人とは何らの関係はないものであり、又同人は被告法人の使用人、或は、代理人となつたこともなかつたこと、斎藤は右使用部屋の表側出入口ガラス戸に「六踏園電気部」なる金文字を書いて看板とし、又、その旨の肩書のある名刺(但し、肩書は「六踏園電気部」とのみあり被告法人との関係があるような事項は何ら記載されていない。)を所持して第三者に示し、その旨の肩書を付して手形を振出し(但し、振出人は斎藤個人名義にして被告法人との関係があるような事項は記載されていない。)、その旨の文字のある印判を使用していたが、右斎藤が使用していた分には「社会福祉法人」なる文字は書かれていないこと、被告法人の有する電話(本所(63)六一六九番)を斎藤の使用する部屋迄切換スイツチによつて通話し得るように設備し、斎藤は右電話番号を前記名刺、印判等に記入使用していることを知つていたが、これを特に禁止するような申込みを為さなかつたが、本件原告との間に問題が生じた後に、斎藤は右商号の使用を止めたことを認めることができその他の証拠をもつてしては右認定を左右するに足りない。

以上認定の事実関係からすれば、斎藤が被告法人の使用人、或は、代理人である旨の原告主張はその理由がないこと明らかである。そこで、斎藤が「六踏園電気部」なる商号を使用したことを被告法人が知りながらこれを看過していたことが、商法第二十三条、又は、民法第百九条の場合に当るかどうかの点について考えるに、成程右商号は一見被告法人の一部門と誤認する恐れがないとはいえないけれども、被告としては積極的に右商号の使用を許諾した訳ではなく、かつ、前記斎藤の室の看板名刺、手形等の各記載より見れば、通常の注意を以てすれば、「六踏園電気部」と被告法人とが同一であるか否かについて疑問が生ずるのが当然であり、若し、原告がこれを確かめることなく只漫然と同一のものであると信じて取引を為したものであるならば、原告において重大な過失あるものと云うべく、被告が斎藤の右商号の使用を看過したことを以て直ちに前記法条に該当する場合として被告をして斎藤の行為について責に任ぜしめることは、前認定の如き事実関係にある本件においては適当でないと考える。

その他口頭弁論に提出された全証拠によるも右判断を左右し得ない。

果してそうであるならば、原告が主張するその余の点については判断する迄もなく、原告の被告に対する本訴請求は失当にして棄却すべきものであるから、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 石井玄 林田益太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例